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1918年、ジェームズ・パーキンソン医師が「振戦麻痺」として報告したことにちなみ名づけられました。
脳内で神経伝達物質「ドーパミン」を作る「黒質」という部分の神経細胞が減ることに起因して、様々な運動障害が現れます。
日本では人口10万人あたりに100人程度の患者がいるといわれています。
50~60歳代の発病が多いのですが、20~80歳近くまで幅広い年齢で発症し、40歳以前に発症するものは「若年性パーキンソン病」と呼ばれています。

脳の中では何が起きているのか

健康な人の脳では、大脳の「線条体」という部分で、ドーパミンとアセチルコリンという神経伝達物質がバランスよく働くことにより、全身の筋肉に運動の指令が伝わるしくみになっています。
この病気では、黒質の神経細胞が減ることで線条体に充分な量のドーパミンが送られず、神経伝達物質のバランスが崩れるために、運動の指令が伝わらなかったり、誤った指令が出たりして、自分の身体が思うように動いてくれなくなります。
病気を惹き起こす直接原因はわかっておらず、完治させられる治療法もまだ見つかっていません。

主な症状と診断

「安静時振戦(何もしていない時に手足がふるえる)」「筋強剛・筋固縮(筋肉がこわばる)」「寡動・無動(動きがゆっくりになる)」「歩行・姿勢保持障害(反射的な体重移動が難しくなり倒れやすい)」が代表的な症状として挙げられます。
運動障害は、はじめ身体の左右どちらか一方の手足に強く現れ、病気の進行に伴い反対側の手足にも広がっていきます。
脳内化学物質の欠乏により、血圧異常や体温調節困難といった自律神経症状、うつ症状が合併して現れることも多々あります。
病名の診断は、上記症状と類似する他の疾患の可能性が除外される状態で、パーキンソン病の治療薬によって症状が好転する場合に、ほぼパーキンソン病であるとされます(近年、PETという検査で、より客観的な鑑別が可能になっていますが、設備装置のある医療施設が限られているうえ保険適用されておらず、まだ一般的とは言い難い状況です)。
症状の個人差が非常に大きく、また一般的な検査(CT、MRIなど)では異常が見られないため初期の診断が困難な場合もあり、初発症状が現れてから診断がつくまで数年かかることも稀ではありません。

現在の治療

内服薬によるものが主流です。
足りなくなるドーパミンを補うために、脳内でドーパミンに変換される薬(ドーパミンそのものを有効な形で脳に取り込む方法は見つかっていません)、ドーパミンの分泌を促す薬、ドーパミンに似た作用をする薬、相対的に過剰となるアセチルコリンの働きを抑える薬、ドーパミンを分解する酵素の働きを妨げる薬、等々、多数多様のの薬剤を組み合わせて運動障害の症状を軽くします。
服用の際、体質や病歴にもよりますが、副作用として頭痛、吐き気、むくみ、急な眠気、気力・集中力の低下、幻聴、幻視、不随意運動(意志とは関係なく身体がもがくような動きをします)などが現れます。
運動障害が軽い段階では、服薬により症状をかなり緩和できますが、病気そのものを治したり進行を止めたりできるものではないので、進行に伴い服薬の種類や量は増えていきます。
また長期にわたり服用するうちに薬効時間が短くなったり、効き方が不安定になったり、強い副作用として不随意運動が現れたりします。
病気が進行して薬剤による症状のコントロールが困難になったり、副作用が酷く調整が難しくなった場合の選択肢として外科治療(手術)があります。ただしこちらも完治療法とはいえません。
最近では、脳内の視床下核という部位に電極を、胸部皮下に電池を埋め込み、絶え間なく電気刺激を送る「脳深部刺激療法(DBS)」の術例が増えています。

患者をとりまく状況

進行性の神経変性疾患として国の難病指定を受けており、治療法の研究に与するための特定疾患研究事業の対象として公費助成を受けられますが、厚生労働省の方針により、今後、対象が重症患者に絞り込まれる可能性があります。
進行初期や軽症とされる患者にとっては、医療費の負担がより深刻な状況になると考えられます。
投薬が不可欠という経済的負担(医療費)に加え、症状も薬の効き目も気候や精神状態によって刻々変化するため、いつ動けなくなるか分からないという強い不安が精神的負担となり日常生活を圧迫します。
さらに若年発症の場合には、働き盛りの時期に周囲の理解が得られず職を失ったり、老人が罹る病気というイメージが強いため病名や症状を隠そうとして服薬量を必要以上に増やしたり、隠すことによるストレスで病状が悪化したりすることもあります。

今後の展開

根治療法は見つかっていないものの、難病のなかでは比較的研究が進んでおり、最先端の遺伝子治療や再生医療の分野で新しい治療法が確立される可能性も出てきました。
薬物治療についても、日本は欧米に比べ認可が遅いのですが、内服の新薬だけではなく、薬剤が安定して吸収される経皮パッチ薬(貼り薬)、薬効が素早い自己注射薬なども治験段階に入っており、治療の選択肢を少しでも増やせるよう一日も早い認可が待たれています。